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いつも「時間がない」あなたに【欠乏が知能をどう下げるのか】

 

 

 

センディル・ムッライナタン、エルダー・シャフィールの共著である【いつも「時間がない」あなたに】のブックレビューになります。

 

 

 

 行動経済学の本はだいたい面白いのですが、こちらの本は別格でした。 ダニエルカーネマンのファスト&スローに匹敵するぐらい、私としては非常に感銘を受けた本になります。きっかけは勝間和代さんの YouTube で紹介されていたこともありとても興味を持って手に取りました。

 

  この本はどのようなことが書いてあるかと言うと、結論としては人はお金にしても時間についても欠乏していると頭が悪くなる、ということです。どういうことかというと、例えば毎月の支払いに追われていてまったく金銭的に余裕がない家庭を思い浮かべてみます。

 

 このような家庭の場合、頭の中に常に考えていることは今月の支払いをどうしようとか東店車の修理費にまたお金がかかるけどそのお金が捻出できない、先月借りたお金を返さなければいけないけど返せるだろうか、などお金についての心配が常に頭の中から消えなくなってしまいます。その結果何が起きるかと言うと、それ以外に必要な生活の事柄について、認知的な資源が利用できなくなる現象が起きるということです。例えば、この家庭に子供がいたとして、どこの塾に通わせようとか、将来はどこの学校に入れようとかというよりも、目の前の借金や生活費のことを考えなければいけないので、結果として学力にリソースを割くことができなくなってしまうということが起こってしまうのです。



  時間についても同様で、次から次へとスケジュールが埋まってしまい時間的な余裕が全くないような働き方をしていると、締め切りに追われて質の高い仕事ができなかったり、新しい仕事への投資に対してどのようなことが必要かということに考えを巡らせる時間が全くできずに、日銭を稼ぐような仕事をいつまでたっても抜け出せなかったりします。



  お金についても時間についても非常に感銘を受けたのが、足りないということがどれほど私たちの生活や認知能力に影響を与えるかということについてです。私たちの地頭や認知能力は、生まれや日頃の行いによって決定するものだとばかり思っていましたが、実は日頃のこのような欠乏によって相当な影響を受けているということがはっきり示されており、しかも本当に身近なことばかりが取り上げられていたので、 とてもショッキングでしたまるそして自分自身の身を振り返ると、やはり時間やお金に余裕がない時というのは失敗する傾向が多く、また熟考する時間もあまり取れずに愚かな決断をしていたことが多く思い出されます。

 

以下は特に本書で気になった部分になります。

 

 欠乏は心を占拠する。 人はどんな欠乏でも経験するとそれに心を奪われてしまって、満たされていないニーズを追いかけてしまう。空腹な人の場合は食べ物、食べ物多忙な人にとっては仕上げる必要のある仕事、近鉄の人にとっては今月の家賃や支払い、孤独な人にとっては友人や話し相手。 持ってるものが少ないというだけでなく、欠乏は心に居座るのである。そして心を占有する。

 

 

 

 空腹の人にほんの短い時間だけ単語が出るような画面を見せてその単語を当てさせるような実験をする。そうすると当然普通の人が見逃してしまう単語であっても、食品に関する単語に関しては、空腹の人は正答率が高くなる傾向がある。 欠乏が食べ物に対しての集中を高くしているのだ。



 

 消防士の死亡原因として最も多いのが心臓発作、その次に多いのが交通事故が挙げられるという統計がある。そのうち79%では、消防士はシートベルトをしていなかったそうで、消防士自身も講習でこの事を習っているが、通報された場所に行くまでに様々な事をしなければならずと10時間の欠乏がシートベルトをつけることを忘れさせてしまうのだ。



  一つのことに集中するということは、他のことに集中しないということだ。集中する力は物事をシャットアウトしてトンネリングを引き起こす。 トンネリングとはトンネル視を連想させることで、トンネルの内側のものは鮮明に見えるが外側のものは何も見えなくなる視野狭窄のことである。 集中することはその時大事なことに集中することであるが、トンネリングは他の重要なことを見逃してしまうことを意味する。  



 

 トンネリングはトレードオフを歪める。 現在の家計をやりくりするのに集中すると、保険の控除免責額引き上げが将来に与える影響を考慮しなくなる。 



 欠乏への集中は無意識であり人の注意を引きつけるので、他の事に集中する能力を邪魔してしまう。 他の事をしていても欠乏によるトンネルは人を引きずり込んで話さなくなり、生活の中の欠乏は他の分野に回る注意や意識が減ることを意味する。



 

 欠乏に気を取られている時は同じ人でも IQ が低くなる。 そのことに処理能力の一部が使われてしまっているため能力が劣っているように見えてしまうのだ。



 大きいスーツケースを持っている場合は、中に何かを入れる時に 余裕ができる。また、追加で何か入れなければいけない時にも考えずに放り込むことができるまるこれを スラックと呼ぶ。 欠乏している人は、このスーツケースのスラックがない状態に例えられる。 何かを入れるためにも大幅に処理能力を駆使して物をどのように詰め込むかを考えなくてはならなくなってしまう。 これはお金でも時間でも同じで、スラックがない場合については余裕を生み出すためにどのようにしなければならない顔考えなければならなくなるが、 スラックがあればその必要はない。 

 

 

 

 ヘンリーデイヴィッドソロー「人の豊かさは気にしないでいられるものの数に比例する」

 

 

 

 人は現在を優先する傾向があり、これは現在バイアスや双曲割引と呼ばれている。 目先の利益を最大限評価して、将来の利益をおろそかにする。



 

 人はスラックがないとジャグリングと呼ばれる状態に陥るまるこれはどのような状態かというと東店次から次へと様々な状態に対して対処しなければならない状態で、 サーカスでピエロがボールを何個も空中に投げてぐるぐる回す曲芸のように、目の前のボールに対処してはすぐ次のボールに対処しなければならないような状態である。 



 スラックは裕福な時に気付かなければならない。 欠乏は人を引きずり込む力が強く、余裕がある時には将来の欠乏については気付くことが難しいが、その状態でいるといつのまにかお金も時間も無くなっているものである。 常に余裕を残しておいて、その余裕のある時に次の欠乏に備えることが必要である。

 

 

 

 これは最近読んだ中でも特に面白い本で、本当に名著の部類に入る傑作だと思いました。 そしてこの本を読んで改めて思ったのが、余裕がある時にこそ将来の余裕にさらに備えるという スラック を強化するということがどれほど大切かということです。結局 スラック に甘んじて、現在の時間を浪費してしまうと気づかないうちに人間は欠乏の罠にはまってしまい結局十分脱落を用意することができなくなってしまうということです。

 

  まず私がやらなければならないことは、災害の備えなど余裕がある時にしかできない備えを見直すことかなと思いました。 また時間の使い方に関しても、仕事の準備は絶対に前日に終わらせておくなど、さらにスラックを用意することは改めて実行しようと思いました。