ミニマリスト ひかるの本棚

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【身銭を切れ】を要約。リスクなくして得るものなし。

 

 

 ナシーム・ニコラス・タレブの「身銭を切れ」を読了。統計や金融などの専門的な用語も多いため、かなり読むのみ時間がかかったことと、普段馴染みのない分野であったため、私にとっては非常に難解な部分が多かった本です。

 

 

 

 

 

 



身銭を切るという意味について

 身銭を切るという言葉についてはあまり馴染みがないかもしれませんが、本書の原文のタイトルは「Skin in the game」。金融の用語で責任やリスクを負っているという意味だそうです。本書の第一部、『「身銭を切る」とはなにか』で述べられていますが、この本のテーマは主に以下の4つです。

 

 

(a)不確実性と、実践的な知識や科学的な知識の信頼性(両者が違うものだと仮定して)。申し少しぶしつけな言い方をするなら、たわごとの見分け方。

(b)公平、公正、責任、相互性といった人間的な物事における対称性。

(c)商取引における情報共有。

(d)複雑系や実世界における合理性。

 

 

 項目だけ見てもなかなか難しい印象をもってしまいますが、この本のメインテーマはリスクを取ることの重要性。読んでいて特に印象に残った点について書いてみたいと思います。



ロバート・ルービン取引

 元アメリカの財務長官であるロバート・ルービンはリーマンショックが発生する前の約10年間で1億2000万ドル以上をかき集めており、リーマンショックが発生するほどのとんでもないリスクを隠して利益をあげていたが、それが弾けるとブラックスワン、不確実性の話を持ち出して責任転嫁を行ったことに由来する話の事です。

 

 

 

 この話は本書の中でも核心となる部分で、官僚的な立場にいる人たちは身銭を切らない、つまりリスクを取らないので、一般人がどれだけ危険にさらされたり損をしても気にしないということ。失敗の被害をこうむらないということは、官僚的な人はリスクの取りすぎということも理解しないし学ばないので、適切な学習のプロセスを妨げてしまう結果になってしまうのだそうです。



 そして、人間は失敗からはあまり多くを学ぶことはできず、むしろ学ぶのは人間が属しているシステムのほう。失敗したり、取り返しのつかないことをしでかした人はその場所にいられなくなったり、組織から排除されるので、個人よりもシステム全体が最適化されていると説明されており非常に興味深かったです。




リンディ効果

 リンディ効果とは、リンディーズというニューヨークのデリカテッセンの中で、ブロードウェイで、役者たちが他の役者たちの噂話をしていた時に発見された法則のことで、

 

 

現時点で100日感続いているブロードウェイ・ショーは、もう100日感続く。200日感続いたショーは、もう200日感続く。

 

 

 

 というものです。この話の興味深い点は、さまざまなものを本当に評価するのは一体誰なのかという話。批評家があれこれの作品が良いということを新聞の書評などに書いたりしますが、それよりも本当に評価に値するのは「生存」、つまりどれぐらいの時間生き残ってきているかということが、もっとも確かな評価に値するのだということです。

 

 

 

 なにかが身銭を切って現実にさらされることによって、長い時間の評価の中でも生き残っているのであれば、それこそさまざまな専門家の評価からふるいにかけられても生き残ったものであるものであるとのこと。本書では「耐リンディ」、生存を前提として、逆向きに寿命が長くなるものとして説明されています。よく古典が最良の教科書などと評されることがありますが、たしかに長い時のふるいかけられ、何百年何千年も生き残っているのだから優れているというのは評価に値するもの、というのも当然な気がします。




エージェンシー問題

 エージェンシー問題とは金融の用語では有名だそうですが、要は利害が一致していない状態のことを指します。たとえば、私達が保険に入る時。私たちとしては得をしたいというインセンティブがあるので、病気がわかって誰かにそれを知られる前に保険に入れば、余計なお金を支払わずに、保険金をもらうことができます。しかしそれは、その人が払うべきお金を保険システム、他の保険料を払っている人に負わせることになります。



 

 

 また、著者の経験談として、以前に公開討論で話した内容が歪曲されて、1時間の中で話した20秒ほどの一部の内容だけが抜粋されて、本来の意味とは真逆の意味のことが新聞で報じられたそうです。こちらもエージェンシー問題で、著者としては発言したい内容は別のところにあるにも関わらず、メディアはそのように報道した方が自分たちの利益になるため、ほんの一部だけを切り取って真逆の発言をしているように見せたということです。ここでも利害がまったく一致しておらず、利害が対立した結果としている状態が見られます。

 

 

 

 ここでは個人の話ですが、企業や組織になると一方にリスクがどんどん積み重なる結果となります。先に記載したリーマンショックがその典型で、官僚が銀行にリスクを押し付け続けた結果として、政府が救済しなければならない事態が発生しています。こちらもまさしくエージェンシー問題ですね。



 

 

まとめ

 ナシーム・ニコラス・タレブの身銭を切れの書評でした。私が読んでいて特に印象に残った、ロバート・ルービン取引、リンディ効果、エージェンシー問題についてを主に書いてみましたが、その他にも身銭を切らないことのリスクや、それがもたらす歪み、有能な医者の見分け方など示唆に富んだ内容が多く非常に読み応えがありました。



 

 私はこの書籍を勝間和代さんのYou Tubeで知り初めて読んだのですが、その他の書籍についてもまとめて読んでみようと思わせられるほどユニークでまさに唯一無二、といえる著者であるといえる方です。読書好きな方であれば絶対に共感して下さると思いますので、興味を持たれた方はぜひ一読することをおすすめします。

 

 

 

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