ミニマリスト ひかるの本棚

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【実力も運のうち 能力主義は正義か?】を要約。ポピュリズムの根底にあるもの

 

 

 

 以前に教育心理学について学んでいた時にPISA、国際学習到達度調査の項目で書いてあったこと。子どもの学力に一番影響を与えるのは親の年収であり、PISAはその調査に使用されているということでした。なぜ年収が高いと学力が高くなるかは、はっきりとわかっていないということでしたが、本書を通じて能力主義・学歴偏重主義が大きく影響を及ぼしているということがよく理解できました。

 

 

 

 マイケル・サンデルの【実力も運のうち 能力主義は正義か?】を読了しました。トランプ大統領が当選した時期に大きな力となったポピュリズム。その原動力になったのは、能力主義エリートへの憎悪であり、学歴の無い人びとの怒りであったとのこと。世界一経済大国ではありますが、大卒の学歴を持っている人よりも持っていない人の方が多く、それらの人々はアメリカンドリーム、やれば誰でもできる!という言葉のもとに傷つけられてきたのであり、そのメッセージを裏返せば成功していないのは能力がない、やるべきことをやっていないという自己責任感が常につきまとう言葉となっているので、そのような人たちは常に見下されているように感じるのだそうです。

 

 

 今はあまり目にしなくなりましたが、総中流と言われていた日本やその他の欧米諸国とは明らかに違った厳しい競争社会の歪みが見てとれ、能力主義というのは平等に見えて非常に残酷なシステムで、親の地位や資産が再生産されるため、まったく平等ではない仕組みなのだということ、トランプ現象の背景にあるものがようやく理解できたように感じます。マイケル・サンデルならではの展開で能力主義の問題点をあぶり出す手法で、本書は超良書であると感じました。

 

 

 

以下は本書で気になった部分です。

・過去40年ほどに渡ってアメリカ、イギリスの大統領は能力主義つまり頑張れば報われる、あなたの労働は頑張った分の報酬に値するということを訴え続けていた。過去にそれはアメリカン・ドリームという名前で人々を惹きつけ魅了してきた。しかし、近年はそうではなかった。トランプ大統領に投票をしたポピュリストたちにとって自分たちへの侮辱と映った。なぜなら、出世できないのは能力がないということを、能力主義の人たちから嘲笑われているのと同様になるからだ。

 

 

 

 

・アメリカ人は「人生の成功は自分の支配できない力によってほぼ決定される」という言説に同意しない。賢明に働けば成功できるという考え方が強ければ、成功できない人は自動自得と考えるしかない。ヨーロッパの多くの国では大半人が成功は自分の力以外で決まると考える。

 

 

 

・アメリカで貧困層から富裕層になる人は数パーセントで、中間層になれるのも1/3程度。アメリカン・ドリームを実現できる人は一握り。現在「アメリカン・ドリーム」を実現できるのはアメリカでよりもカナダや中国での方が可能性が高い。なぜかといえば、親の経済的な優劣が次の世代に引き継がれる可能性がアメリカは高いから。

 

 

 

 

・近年では議会議員は学歴偏重となっており、労働者階級出身の議員は二、三パーセントしかいない。ヨーロッパの国でも同様で、成人の七〇パーセントは学位を持っていないが、学位を持たない人が議会へ進出する例はわずか。

 

 

 

 

・学歴偏重のなにがいけないのか? 学歴がある方が政治を行うのには優れているのではないか。そうではない。統治に必要な実践知、市民的美徳は大学でも養成されているとはいえない。最近の歴史的経験からは洞察力や道徳的人格を含む政治的判断能力と名門大学に合格することは関係ないことがわかっている。学歴が高い人間が優れた統治ができるというのは事実ではない。

 

 

 

 

 

・過去二〇年間でハーバード大学、スタンフォード大学は資力に乏しい学生への援助を増やしてきたが、低所得層からの入学者は増えていない。また、大学は所得階層を上に上げる助けにはならっていない。理由は、一流大学の学生はそもそも裕福な人ばかりだからだ。

 

 

 

 

・人生で大切なことについてはさまざまな考えがあるが、消費者の幸福を最大化すること、経済のパイを拡大することは誰もが合意出来る、もしくは合意できるように見える。対照的に人間が必要とするのが承認、人々から必要とされることで、必要に応えるために自分の能力を発揮することにあるのであれば、消費を経済活動の目的・目標にするのは間違っている。しかし、そのようなことを語る政治家は今ではほとんどいない。

 

 

 

 現状を変えるためにサンデルが提案するのは、大学の適格者のくじ引きによる選考、職業訓練への補助金の拡充、金融取引への課税強化などさまざま。日本では金融所得への課税について発言をしてすぐに火消しに追われていましたが、いずれ能力主義に侵食されるような社会になれば再考が必要になるのかもしれないですね。