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【人間をみつめて】生きがいの考察

 

 

 

 

 

人間をみつめて

 先日紹介した神谷美恵子さんの「ケアへのまなざし」を読書メモで読み返してから、なんとなく気になって別の本も読み返していました。著者の本はほとんど読んだと思うのですが、どれも人間への深い洞察に支えられていて、読むたびに新たな視点を与えられます。

 

 最近また読み返したのは「人間をみつめて」という、新書でも販売されている本です。

 

人間をみつめて (神谷美恵子コレクション)

人間をみつめて (神谷美恵子コレクション)

 

 

 自分にとって「生きがい」とは何か、生きているとはどういうことだろうかと考えたことがない人はいないのではないかと思います。特に厳しい境遇、逆境に立たされている時などは「なぜ自分がこんな目に」と思わずにはいられません。

 

 ぼくの場合、以前サラリーマンの仕事をしていた時には「この仕事を続けていていいのだろうか」と考えることが割とよくありました。面白くないわけではありませんでしたが、自分が興味のある分野とは考え方もやっていることも全然違っていたので、今思うとあまり「生きがい」を感じられていなかったような気がします。そんな時、この本には支えられました。

 

 人間にとっての「生きがい」を研究し続けた著者の鋭く、多様な視点から学べることは少なくないでしょう。

 

 

 

 

生きがいを感じたいというのは人間のまぎれもない本性の一つだろうが、さてそれでは、自分が生きがいを感じることが人生でもっとも大切なことかどうか。また自分が生きがいを感じないから、生きていても意味がないと簡単に言えるかどうか。

 

 

 

 

 

生きがいをつかまえようとして、あまりにもやっきになると、かえって生きがいは指の間をすり抜けて行ってしまうものではなかろうか。むしろ生きがい感とは、人生の途上で期せずして与えられる恩恵のようなものではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

「私は何かから逃避するために忙しさのなかで自分を忘れて、安心らしきものを得ているのである」
 これは正直で真摯な反省というべきであろう。ふつう「生きがい」といわれているものの多くは、この逃避に役立っているものではなかろうか。パスカルはこれを「まぎらし」とか「気散らじ」と呼んでいる。つまり、人間の多くの活動は、人間がおかれている死刑囚にも似た境遇から気をそらすものだ、とパスカルはいうのである。

 

 

 

 

 

 

人生にはただ慣習に従っておけばよい面と、どうしてもこれだけはゆずれない、ゆずってはならない、という本質的な面とがある。同じように、どの人間のなかにも「慣習的な自己」と「本質的自己」の二つが宿っている。ひとりの人間の内部におけるこの二つの比をスペインの哲学者オルテガは生命的方程式と呼んだ。本質的自己の割合の多い人ほど慣習にとらわれず、他人の眼を気にせず、いきいきしている。

 

 

 

 

 

 

人間は他人をあざむくことはできても、自分をあざむくことは必ずしもたやすくない。

 

 

 

 

 

 

いうまでもなく 、使命感と善悪の関係は必ずしも単純ではない。たとえ善意にもとづいていても、使命感の結果が他人に迷惑をかけたり、他人を不幸にしたりさえすることは、しばしば目撃されるところである。やっかいなことに、使命感の持主というものは、たいてい自己の使命を善と確信してやまないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

人の心には、たとえさざなみ一つ立たないようにみえる場合でも、その奥底には、たくさんの矛盾した欲望や感情や衝動が秘められているのではないか、と思われてくる。大脳生理学的にも、こう考える根拠が十分あると思う。つまり、新しい脳には古い脳に対する抑制力があるので、これがふつうに働いているときには、古い脳にある原始的な本能や感情が抑えられている。ところが過労や睡眠不足、対人関係のもつれや愛する人の死など、何か内外の原因でこの新しい脳の統制力が弱ってしまうと、古い脳から発動される衝動的・非合理的なものがあふれ出てきて、心全体を混乱におとしいれてしまう。

 

 

 

 

 

 

私たちは人間の小さなあたまで、ただ有用性の観点からのみ人間の存在を測ってはならないと思う。何が有用であるのか、ということさえ、ほんとうには人間にはわからないのではなかろうか。たとえば学問でも、人の役に立つと見えるもののみが価値がある、とは私は決して思っていない。

 

 

 

 あらためて著者の本を読むと、引用している文献の豊富さにとても驚きます。読書が好きだということもあるのでしょうが、文学、哲学、精神医学など幅広い分野からの学びが広い視点を生み出しているのだと思います。まだまだ自分もさまざまな分野を勉強をしていかなければとあらためて思わされました。

 

 

 

 

 

 

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