自分を知るために。 おすすめの古典教養小説5選
精通しているわけではありませんが、小説は学生時代から好きでよく読んでいました。特に影響を受けたのは教養小説と呼ばれるジャンルの文学です。
教養小説とは
そもそも教養小説とはなにか。ウィキペディアから引用します。
教養小説(きょうようしょうせつ、 ドイツ語: Bildungsroman)とは、主人公が様々な体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説のこと。ドイツ語のBildungsroman(ビルドゥングスロマーン)の訳語で、自己形成小説とも訳される。
もともとはゲーテの作品につけられた名称だそうですが、それ様々な教養小説が執筆され世の中の特に若い世代に影響を与えてきました。
世間との軋轢や、社会規範と内面との葛藤など、思春期に多くの人が体験する「自分とはなにか」、「どう生きていくべきか」というを主人公がもがきながら獲得、時には挫折する姿が描かれているのが特徴です。
昨日の記事にも書いたのですが、SNSの隆盛で多くの人が繋がり、幸福が大流行しています。そもそも価値観は人それぞれのはずですが、画一的な幸福の形が流行しているように見える昨今で、自分の本当に大事にしている価値とは何か、を考える時にきっと役に立つはずです。
ヴィルヘルム・マイスターの修行時代
教養小説というジャンルの原点になったと言われている作品。主人公ヴィルヘルムのさまざまな人との恋、友情、挫折を通して精神的に成長していく様が描かれている傑作です。
山頂はわれわれの心をひくが、そこに登る段階は心をひかない。われわれは山頂を仰ぎ見つつ、平地を歩むことを好む。
さまざまな人間が、さまざまな事情で集まって、作り出したものが、完全な状態で長つづきするということはありえないのである。劇団にしろ、国家にしろ、友人の集まりにしろ、軍隊にしろ、一般に、その完全さ、一致、満足、活動が最高の段階にある時が話題にされるのであるが、しかし、たちまち構成員が変わり、新たな顔ぶれが加わり、人が事情に合わなくなり、事情が人に合わなくなる。そうなると、すべてが変わり、それまで結ばれ合っていたものが、たちまち瓦解してしまう。
- 作者: J.W.ゲーテ,Johann Wolfgang Goethe,山崎章甫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/14
- メディア: 文庫
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トニオ・クレーゲル
ドイツの作家、トーマス・マンの短編小説。主人公トニオ・クレーゲルの少年時代の思い出と、彼が作家として活躍する中で本当に求めていたものはなんだったのかを描いた小説です。青春時代、多くの人が通り、心の奥に秘めてしまう苦く、甘い思い出ではないでしょうか。
彼はインゲを見つめる。幸福と嘲りに満ちた、切れ長の碧い眼を見つめる。するとねたましい憧憬がーー彼女と切り離されて永久に他人で終るという、鋭い息詰まるような苦痛が、彼の胸を占めて燃え立つのである。
僕は君たちを忘れていたのか、と彼は問うた。いや決して忘れたことはない。ハンス、君のことも、インゲ、君のことも。僕が働いたのは君たちのためだったのだ。だから喝采の声を聞く度に、僕はいつも君たちもそれに加わっているかと思っては、そっとあたりを見廻したものだ。
君たちはどう生きるか
当ブログで何度も紹介している本書ですが、まさしく教養小説と呼ぶふさわしい内容と思います。主人公のコペル君の内省と、おじさんとの対話、さまざまな学校内での事件を通して彼の心の成長があざやかに描かれています。
学校で教えられ、世間でも立派なこととして通っているからと言って、ただそれだけで言われた通りに行動し、教えられた通りに生きていこうとするならばーいつまでたっても一人前にはなれないんだ。
最後の鍵はーーコペル君、やっぱり君なのだ。君自身のほかにはないのだ。君自身が生きて見て、そこで感じたさまざまな思いをもとにして、はじめて、そういう偉い人の言葉も真実も理解することができるのだ。数学や科学を学ぶように、ただ書物を読んで、それだけで知るというわけに、決していかない。
車輪の下
ドイツのノーベル文学賞受賞作家、ヘルマン・ヘッセの長編小説です。タイトルの通り、世間という車輪の下、エリートコースを歩んだヘンス少年の悲劇的な人生と苦悩が描かれた傑作です。自分の価値を知らずに生きるということはどういうことか。それがありありと描かれており、10代で読んでおきたかった一冊です。
自分が同級生全員にどれほど差をつけたかということや、教師や校長が自分を一種の尊敬と、驚嘆さえもって眺めていたことを考えると、優越感を覚えるのだった。
ただの一人も、自分の子どもを経済的な優遇と引き換えに国に売り渡すのだとは思ってもいなかった。(中略)こうして生徒たちは、道さえ踏み外さなければ、生涯の終わりまで国家によって養われ、住む場所を与えられることになったのだった。それがまったく無償というわけではないかもしれないということについては誰も考えたりせず、父親たちもそこまでは思っていなかった。
- 作者: ヘルマンヘッセ,Hermann Hesse,高橋健二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1951/12/04
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デミアン
僕の中ではもっとも好きな教養小説です。主人公のクローマーが、転校生のデミアンと出会い、その対話の中で精神的な成長を遂げていく姿、デミアンの言葉には何度も励まされ、自分の職業選択や生き方に大きく影響を与えてくれました。
きみはよくきみ自身のことを風変わりだと思ったり、大多数の人間とは別の道をゆくのを、きみ自身にむかって非難したりするね。そんなくせは、やめなければだめだぜ。火を見つめたまえ。雲を見つめたまえ。そしていろんな予感がわいてきたり、たましいのなかの声が語りはじめたりしたらすぐに、そういうものに身をまかせてしまってね、はたしてそれが先生がたやお父さんや、またはどこかの神さまに、お気にめすとか、都合がいいかなぞとわざわざ聞かないことさ。そんなことをすれば身をほろぼすことになる。
かれが詩人としてまたは狂人として、予言者としてまたは犯罪者として、終わろうとかまわないーーそれはかれの本領ではない。それどころか、そんなことは結局どうでもいいのである。かれの本領は、任意の運命をではなく、自己独特の運命を見出すこと、そしてそれを自分のなかで、完全に徹底的に行きつくすことだ。それ以外のいっさいは、いいかげんなものであり、のがれようとする試みであり、大衆の理想のなかへ逃げもどることであり、順応であり、自己の内心をおそれることである。
じぶんが何を大事にしていて、どういうことを価値観にしていて、何をやりたいのか。アイデンティティと言うべき、自分の核となる部分を考える時にとても参考になる偉大な本です。読書の秋(遅い?)におすすめです。
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